今回のノーベル物理学賞「トポロジカル物質」って何?:日本人の貢献も無視できないヨ!   

みなさん、こんにちは。

昨日のノーベル物理学賞受賞のニュースに関してわが国で一番先に報道した、というか、メモしたのがこの私のブログだった。ほぼリアルタイムで報道したわけだ。
今年のノーベル物理学賞は?:物性理論家のサウレス、ハルデーン、コスタリッツの3人へ!
なぜなら、リアルタイムの発表式典を見ていたからである。

1時間後にネットの朝日新聞、次が毎日、2時間以上経って読売、産経、日経などと公表があった。私はどこが一番最初かずっと観察していたんですナ。

面白いことに、反日アカヒが最速だった。これは日本人の受賞がなかったから一番先に「ざんね〜〜ん!ざま〜〜みろ!」的な意味合いで報道したのだろう。毎日変態新聞もそうだろう。


さて、このようにネット社会の今では、「自分たちの番組」というように、テレビ番組枠やら、あるいは、朝刊、夕刊、日刊、週刊、月刊などと時間を区切ったメディアはもはや存在価値がないのだ。競争に負けるのだ。

事実、ノーベル生理医学賞の発表はツウィッターが最初、その次がフェイスブック、そして一番最後がYouTubeだった。新聞は何十分〜数時間までも遅れた。

昨日の物理学賞でもそうだった。今回はYouTubeとツウィッター、フェイスブックなどがほぼ同時にリアルタイムで報道された。

それでも、私が最初、その次が朝日、毎日、そして読売、産経、というような順番だったわけだ。

おかげで、産経に至っては遅れて焦ったのか、タイトルに「サイレス」となっていたし、固体が「個体」と表記されていた。その記者は競争に負けたのである。

つまり、ここ徳島阿南の一地方に住む人間であっても、問題意識とネットに自分のツールを持ちさえすれば、世界相手、日本相手にも最速競争で勝てるのである。要は、努力と頭と関心である。

良かれ悪しかれそういう時代に入った。


さて、メディアの報道速度の話で前置きが長くなったが、もう一つは日本のメディアは日本人の受賞でないと興味がわかないという判断=目先の判断を行う。

だから、今回のノーベル物理学賞、それもわが国でもっとも強く、そして最も世界に貢献してきた物理学の分野である「物性物理学」「量子物理学」「凝縮体物理学」の分野のノーベル賞受賞だったわけだから、その裏にはさまざまの日本人の貢献が含まれているのであるが、まったくそういうことに気づかなかったようだ。

このテーマでは日本人でノーベル賞を受賞してもおかしくはない人間がわんさかいるのである。

今夕の化学賞の方では、化学合成ということがかなり比重があがるから、作った人、開発した人に優先順位がつく。だから、飯島澄男博士のナノチューブなどが受賞の可能性が高い。あるいは、チタン酸バリウムの効用を見つけた教授とか、そういうものがノーベル賞の可能性が高い。


そこで、せっかく私が青春期に挑戦してきた物性物理学の分野で物性物理学を学んだものなら誰もが知っているスター3人が、昨夜のサウレス、ハルデーン(ホールデンともいう)、コスタリッツだったわけだから、ここで彼らの業績についても、そしてわが国の研究者の貢献についてもメモしておこう。

まずは、最速でそういう説明をしている人を見つけたので、それをメモしておこう。以下のものである。
エビ風サイエンスミネストローネ

2016年のノーベル物理学賞発表

2016年のノーベル物理学賞が発表され、物質の新しい状態である「トポロジカル相 (Topological phase)」の理論化と発見に関わったDavid J. Thouless、F. Duncan M. Haldane、J. Michael Kosterlitzの3氏に贈られる事が決定した。賞金はThoulessに半分、HaldaneとKosterlitzに残り半分に送られる。

【受賞に関連する論文】
J M Kosterlitz and D J Thouless. "Long range order and metastability in two dimensional solids and superfluids.(Application of dislocation theory)" (1972)
J M Kosterlitz and D J Thouless. "Ordering, metastability and phase transitions in two-dimensional systems" (1973)
J M Kosterlitz. "The critical properties of the two-dimensional xy model" (1974)
David R. Nelson and J. M. Kosterlitz. "Universal jump in the superfluid density of two-dimensional superfluids" (1977)
D. J. Thouless, Mahito Kohmoto, MP Nightingale and M Den Nijs. "Quantized hall conductance in a two-dimensional periodic potential" (1982)
F.D.M. Haldane. "Continuum dynamics of the 1-D Heisenberg antiferromagnet: Identification with the O(3) nonlinear sigma model" (1983)
F.D.M. Haldane. "Nonlinear Field Theory of Large-Spin Heisenberg Antiferromagnets: Semiclassically Quantized Solitons of the One-Dimensional Easy-Axis Néel State" (1983)
Qian Niu, D J Thouless and Yong-Shi Wu. "Quantized hall conductance as a topological invariant" (1985)
F.D.M. Haldane. "Model for a Quantum Hall Effect without Landau Levels: Condensed-Matter Realization of the "Parity Anomaly"" (1988)

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トポロジーで重要なのは、物体における穴の数である。トポロジカル相は物理学においてトポロジーの概念を導入したものである。
画像引用元 (Nobelprize.org)

物質は通常、固体・液体・気体の三態が見られる。これらは古典物理学でも扱える、原子の性質が隠れている状態である。しかしながら、絶対零度に近い低温物理学の世界では、原子の量子力学的な性質が表れるようになり、超伝導や超流動のような、常温付近では見られないような新しい性質が表れてくる。このように温度が変わると物質の性質が変わる事は「相転移」と総称される。

相転移を考える場合、統計力学においては「XY模型」と呼ばれるものが使用される。このXY模型は、3次元空間においての相転移を上手く記述できる。しかしながら、2次元空間においては、相転移が起こらない事を記述する。例えば固体・液体・気体という三態においては、原子が綺麗に揃っているか、それともバラバラになっているかという違いがある。即ち相転移とは、相ごとに原子の秩序が変化する事である。気体のように原子がランダムでバラバラに運動している状態は、どの方向においても原子が同じように分布している、即ち対称であると言い換えられるが、固体のように原子が揃っていると、異なる方向に見ると原子の並びは異なってしまう。これは対称性が低くなっている、即ち対称性が自発的に破れていると言われる。
2次元空間においては、長期的秩序は不安定である事が古くから知られており、従って自発的に対称性は破れず、相転移は起こらないと見られていた。原子が1個から数個しかない薄膜は、XY模型における2次元を満たしている。

しかしながら、David J. ThoulessとJ. Michael Kosterlitzは、実際には2次元空間においても相転移が起こるのではないかと考えた。これが起こるには、2次元空間においては起こらない長距離秩序とは異なる、新しい秩序を考える事が必要である。ThoulessとKosterlitzは1973年に、後に「コステリッツ=サウレス転移 (KT転移・Kosterlitz-Thouless transition)」と呼ばれるこの相転移を理論的に示した。この成果は、その2年前の1971年にVadim Berezinskiiによって示されていたため、「ベレジンスキー=コステリッツ=サウレス転移 (BKT転移・Berezinskii-Kosterlitz-Thouless transition)」とも呼ばれているが、残念ながらBerezinskiiは1980年に亡くなっている。

KT転移では、「量子渦」が相転移の鍵となっている。原子のような量子の世界では、自転に例えられるようなスピンと呼ばれる性質がある。低温においては隣り合う量子のスピンはほとんど同じような向きに揃う事が知られているが、しかしながら一部の領域においてはスピンの向きが渦を巻くように存在する事がある。隣り合う量子同士のスピンが上手く揃わず、縺れた結果渦を巻くように回転する方向に揃うよう安定化したためである。これが量子渦である。
ThoulessとKosterlitzは、低温においては量子渦の状態を理論的に記述した。量子渦は低温においては不安定な存在と見られていたが、実際には量子渦がペアを築くと安定して存在する事を示したのである。高温においては量子渦のペアは分離して単独でいる事で、秩序状態は低くなる。一方で低温では量子渦がペアになる事で秩序状態がある程度生まれる一方、三態における秩序とは異なり長距離秩序には関与しないため、2次元では長距離秩序が起きないというXY模型に反しない。これによって、2次元においても秩序が変わる相転移が起こる事を示したのである。このKT転移で示された、自発的対称性の破れが起こらない相転移が、後に「トポロジカル相転移」と呼ばれる事となる相転移の1種となる。
KT転移が重要なのは、これが多くの物質で見られる性質な事である。極低温の世界では量子が顕著に表れてくるが、KT転移が普遍的にみられる性質である事は、原子物理学や統計力学における低温物理学の理解に欠かせないツールとなるのである。また、これまで2次元物質では起きないと考えられていた超流動や超伝導が起きる事も判明した点も大きい。

1983年には、F. Duncan M. HaldaneがThoulessと共に発見した新しい物質の状態を発見した事で、またしても物理学に大きな影響を与えた。
この発見は1980年の発見に関連する。クラウス・フォン・クリッツィングにより、異なる半導体同士を結合したヘテロ結合の半導体を低温下で強磁場をかけた場合に「整数量子ホール効果」と呼ばれる現象が起こる事を発見し1985年のノーベル物理学賞を受賞した。磁場をかけた事による原子の特性は電子軌道で表されるが、低温下では電子軌道は量子化されるが、この時一見すると不思議な現象が起こる。通常物質に対して電流を流した際に流れる率を示す電気伝導率は、磁場の強さなど外的要因で変化する物の、値の変化は連続的である。仮想的にグラフを書けば、それは直線となる。しかしながら電子軌道の量子化が起こるような条件では、ある一定の値の整数倍の電気伝導率しか示さないという現象が起こる。もし電気伝導率のグラフを書けば、これは直線ではなく細かい階段状となるのである。このような整数量子ホール効果を発見した事でクリッツィングはノーベル物理学賞を受賞したが、この現象がなぜ起こるのかは従来の量子力学では説明のつかない不明な現象であった。

Thoulessは、整数量子ホール効果がなぜ起こるのかを、数学の1つの分野である「トポロジー (Topology・位相幾何学)」によって説明した。ここで言うトポロジーとは「位相同型」の事である。トポロジーはさながら、物体を粘土のように変形させるような行いをする。トポロジーにおける粘土細工においては、切り離す事やくっつける事を禁じている。従って、トポロジーにおいて重要な違いは、物体の穴の数である。切断や結合が禁じられているため、新たな穴を生じさせたり穴を塞ぐ事は出来ないためである。例えば湯呑は、変形させればボールと同じである。しかしながら、湯呑と似ていても、それに取っ手が付いたコーヒーカップは、穴を塞げないためボールになる事は出来ず、ドーナッツと同じである。従って湯呑とボール、コーヒーカップとドーナッツは、トポロジーにおいてそれぞれ同じカテゴリに属する事になる。
トポロジーにおける穴の数は当然ながら整数であるが、これがある事で、トポロジーを使えば整数量子ホール効果を上手く説明できる事をThoulessは発見した。量子ホール効果が起きているとき、ヘテロ結合の半導体間では「トポロジカル量子流体」と呼ばれる量子流体が出現するとThoulessは考えた。物体の一部分を拡大して見た時、それが穴が0個の湯呑か、それとも1個のコーヒーカップかは基本的に分からないのと同じように、電子の流れの一部を観測しても、それがどの種類のトポロジカル量子流体かどうかを知る事は出来ない。しかしながら、量子ホールという "穴" がある為、電子軌道の量子化が起こっている低温下では、量子ホールの数が異なる量子流体は、異なるトポロジーであると説明される。そして、トポロジーは必ず穴の数である整数で表される事が、量子流体における整数量子ホール効果をもたらすのである。またトポロジカル量子流体は、それではない部分との境界部でユニークな特性を示す。Thoulessが提唱したこのトポロジカル量子流体は、後に実験的に証明された。
Haldaneは、このトポロジカル量子流体における整数量子ホール効果が、磁場が存在しない場合でも、薄い半導体層において起こる事を1988年に提唱し、2014年に実験的に存在する事が証明された。

また、Haldaneは、1982年に原子1個が直線的に並んだ原子鎖の磁気特性にもトポロジーで説明される現象が起きているのを理論的に提唱した。原子1個1個は、周りを取り巻く電子のスピンに応じて生じた、非常に微細な磁石に例えられる。この磁石の性質は原子の種類が同じならば同じ強さな為、2つの原子が並ぶと磁石の性質を打ち消しあう。このため、原子鎖を考えた場合、原子の数が偶数な場合と奇数な場合は性質が異なる事を意味している。Haldaneは、原子鎖を構成する原子の数が偶数の場合にはトポロジカルな状態であり、奇数の場合はトポロジカルな状態ではないと考えた。トポロジカル量子流体と同じく、トポロジカル鎖もその一部分を見てもトポロジカルかどうかを決定する事は不可能であり、やはりトポロジカル量子流体と同じく境界部、即ち鎖の端におけるスピンを観測すれば決定される。
Haldaneの考えを支持する科学者は当時ほとんどいなかったが、実際に実験を重ねる事で、Haldaneの推論は正しい事が判明した。これが物質の新しい状態である「トポロジカル相」の最初の発見例となった。

トポロジカル相は現在、1次元物質のトポロジカル鎖や2次元の量子ホールによる量子液体、KT転移によるトポロジカル相転移だけでなく、3次元物質を含めた様々な物質において発見されている。「トポロジカル絶縁体」、「トポロジカル超伝導体」、「トポロジカル金属」などは、3氏の研究における物理学にトポロジーを導入した概念が無ければ発見されなかった物質の状態であり、最先端のエレクトロニクスや超伝導物理学の研究、あるいは将来の実現が期待される量子コンピュータにおいて利用される有望な物質状態である事が期待されている。3氏の受賞は、物質の新しい状態を発見して物質の性質に関する更なる深淵を覗かせ、新しい手法による研究開発に貢献した事が評価されたものである。


さて、上の記事の中で赤くした名前の方が2人、最初が
甲元眞人東大物性研准教授
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(いまだに准教授だ)、次が
ヨンシー・ウー(Yong-Shi Wu)ユタ大物理学部教授
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である。

いずれも私の以下の記事にメモした方である。
光陰矢のごとし:1986年、あれから30年!やっぱりみんな老けたナア!?


私の昔の恩師である。私が米ユタ大に留学できたのは甲元眞人先生のおかげだった。そしてその甲元博士の真横の研究室が右隣にYong-Shi Wu博士の部屋があり、左隣に
BIll Sutherland博士
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の部屋があった。私が最終的にサザーランド教授の下でPh.D.になったから、この3人とはいつも顔を合わせて話をしたものである。

この時代、つまり、1980年代に我々が心血注いで研究に励んでいたものが、まさに今回のコスタリッツーサウレス転移、ハルデーン予想、整数量子ホール効果、分数量子ホール効果、トポロジカル物質、高温超伝導、トポロジカル絶縁体などなどであった。

要するに、素粒子物理や高エネルギー物理の理論家たちが、超ひも理論やら万物理論などといっても、結局は実験できないわけだ。だから、その理論の有効性が分からない。

そういうときに、その10次元版を4次元版、さらに2次元版とトイモデル(=理論的おもちゃの模型)を作って研究すると、その度に新しい物性物理学が生まれたのである。

こういう研究分野の最初がコステリッツとサウレスであり、それに若くして便乗していった目利きの人がハルデーンだった。

ハルデーンの後ろには物性の万能の天才アンダーソン博士(現在95歳くらい現存)がいて、アンダーソン流の物性物理のやり方をさらに現代化したのが愛弟子のハルデーンだったというわけだ。

ハルデーンの後ろには、ショーチェン・ザン(Shou Cheng Zhang)。
SHOUCHENG ZHANG
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X. G. Wen
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などの中国本土からの渡米組が控えた。Wenは超ひも理論のスーパースター、フィールズ賞受賞のエドワード・ウィッテンの愛弟子である。ひも理論では食えないから物性に行けと言われて物性理論に超ひも理論や高エネ物理の理論を持ち込んだ人物である。

この分野でわが国で貢献した方々は多数いる。私がよく知っている人だけの名を挙げると、一番目が
甲元眞人(現東大物性研准教授)
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サウレスといっしょに論文を書き、一番親しい間柄だと思う。

その次が、甲元先生の助手だった
初貝安弘(現筑波大教授)
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その次が甲元先生の大学院生だった
押川正毅(現東大物性研教授、弟子が先生の上になった??)
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そして、私の留学の後を追ってMITに留学した、私のかつての親友、
永長直人(現東大教授)
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(私が先にユタ大留学する直前永長君の家に泊めていただき、これからの物理を長く語り合ったものだ。君もアメリカへ来いよ、留学しろよと言い残し。)


というように、今回、そしてちょっと前の分数量子ール効果のラフリン博士、整数量子ホール効果のフォンクリッチング博士などのノーベル物理学賞など、我々が青春期にチャレンジしたまさにその分野の受賞ということで、まさに

光陰矢のごとし。
少年老いやすし、学成り難し。

というわけである。

今回のKT転移周りでノーベル賞を逃したが、他にもたくさんのチャンスはあるわけで、いずれ近い将来こういった日本人やその仲間たちの中からノーベル賞を受賞するものが出るに違いない。

俺はそう期待したいし、心から願っているわけである。

まあ、我々の人生も無駄ではなかったのであろう。そう思いたい。

ではまた。後ほど。





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by kikidoblog2 | 2016-10-05 10:28 | 普通のサイエンス

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