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ついにネルソンの本「ブラウン運動の動力学理論」が重版になった!   

みなさん、こんにちは。

さて、今年の3月に私はやっとのことでアメリカのユニークな数学者、エドワード・ネルソン博士の本の日本語訳を太陽書房から出版したことをメモしていた。

ついにネルソンの本が日本語になった!:「ブラウン運動の動力学理論」


この中で私が大学4年の卒業研究で「ブラウン運動の理論」を学んだこと、阪大基礎工の大学院に行ってその量子力学版を研究したかったができなかったこと、その後35年経ってやっと保江邦夫博士と知り合うようになって再びネルソンの論文を研究するようになったこと、などをメモしていた。

それが「ネルソンー保江ーザンブリニの確率量子化の理論」と呼ばれるものである。

言い換えれば、「量子力学の定式化における第三の方法」のことである。

この方法は最初に古典的なブラウン運動をとるために、別に量子にだけ限られることがない。流体力学、電磁気学、原子核理論、熱力学、統計力学とあらゆる分野、つまり、確率的取り扱いが必要になるあらゆる理論の基礎となるものなのである。

そういう意味で非常にジェネラル(一般的)な理論である。

ぜひ若い人たちは真面目に勉強して欲しいと思う。

幸いなことにこの1刷目が完売したということで、この度第2刷が作られたようである。そこで一応メモしておこう。
太陽書房

ブラウン運動の動力学理論
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ところで、アマゾンと太陽書房とで注文するとどこが違うか?というと、太陽書房で注文すれば、私に印税8%が入るが、アマゾン経由だと4%になってしまうということである。弱小個人零細出版社だから、大手のようには行かないのだろう。

同様に、1刷りと言っても、ヒカルランドのように初版数千部というようなわけには行かず、せいぜい20部程度である。というのも、今時純粋科学や数学や理論物理の本を初版2000部で出版する気合のある出版社はない。

出版不況の一番の原因は、ブックオフのような中古店、そしてそのインターネット化したアマゾンのようなシステムが出来たことにある。

なぜなら、これまでは読む読まないにかかわらず、本を買って手元に置かない限り本というものは手に入らなかった。また読まない本でも手元においておかなくてはならなかった。大学卒業時にはゴミとして廃棄処分したのである。

ところが、アマゾンやブックオフができれば、中古品として使いまわしできるわけだから、いつも手元においておきたいという必需品扱いする専門家を除き、学生や一般読者など一度読めばいいというタイプの人たちには、古本で売れる場があればその方が好都合、また同じタイプの人間の読者の方も中古で十分ということになるからである。

そうなると、初版2000部のうちいつも手元においておきたい人は、大学図書館とか特別な個人のせいぜい1000部程度となり、残りの1000部がアマゾン経由であっちこっちへ2重3重。。。に取引されてつかいまわされるわけである。こうなると、これまでその使いまわされる分が新刊本の取引とされるはずのものが不必要になるというわけである。

さらにそこへ来て、電子化路線で初版のpdf版ができれば、本の内容しか興味のない人間は電子書籍で十分ということになり、今度はアマゾン経由、あるいは、さまざまな大学経由でpdf版を読めばいいということになり、ますますもって書籍離れが進むのである。

かつて生物学者の大野乾(すすむ)博士が言った「一創造百盗作」という概念の「一創造」があれば、それがpdf化されて、あとは「百盗作」の部分で本の出版になるはずが、そこがすべてダウンロードで終わってしまうわけである。

こうなれば、ますますもって書籍が作られに難くなる。

というわけで、紙の出版物の不況がさらに進むというわけだろう。

しかしながら、本を「一創造」する方の立場からすれば、その「一創造」で多少の生活費や実費を賄う分の利益が得られなければ、生活できないわけだから、次の「一創造」まで生き延びられないことになる。

ここにインターネットの利便が「一創造」する著者の生活を危ぶませ、その結果「一創造」できないというジレンマや悪循環に陥るわけである。「一創造」する側がある程度それによって豊かにならなければ、個人として素晴らしい創作や素晴らしい研究に挑戦しようとする人間が出なくなるわけである。

いい翻訳したらそれなりに1年ぐらいは生活できるとか、こういう感じでないと、次の著作に集中する機会もなくなるのである。

だから、結局、利用する側だけの利便でできたインターネット・システムでは、利用させる側や作る方の利便がむしろ減るのである。結果、出版社や著者の数が減り、結局、同じ本のコピーだけが流通するという結果に陥るわけですナ。

アマゾンなんかは、結局自分が扱う本の売買の手数料だけとって儲けるというつもりが、結局本の著者がいなくなるわけだから、最終的にはアマゾンも必要なくなるわけだ。だから、アマゾンが維持したければ、アマゾンは新しい本の著者や本の翻訳者や出版社などに対して、むしろ助成金を与えるくらいのことをしなければ、結局新しい本ができないわけだから、既存の本の売り回しだけで終わってしまうわけである。

とまあ、そういうわけで出版界の未来はこのままでは100%デッド・エンドに向かうのである。


まあ、我々理論物理学の世界では、読むべき人だけが読んでくれたらそれで結構なわけだが、これでは出版社も厳しくなるわけですナ。


おっといけね〜〜、忘れるところだったが、ところで、アマゾンのこの本のレビューのところにかなり的外れの感想を書いている馬鹿者がいたが、この本はネルソン博士のプリンストン大学における講演講義が基になっている。いまならYouTube番組になるようなものである。だから、すべて会話でできている。だから、翻訳においては、ネルソン博士が黒板を背に数学を講義している雰囲気が出るように出来る限り努力して翻訳したものである。だから、”わざと”意識的に口語体で翻訳したのである。できるかぎり平明な文章で、話し言葉風に書いているのである。これを普通の表現とは違うってか?アホちゃうか?

ちなみに、初版でまだいくつかミスタイプなど誤字脱字等が散見されたが、そういうものはできるかぎり取り除いている。


いやはや、世も末ですナ。


おまけ:
オンサーガーの翻訳本も、第二版はすでに出版社へは送っている。これにはオンサーガーのイジング模型の章を付け加えたり、あとがきで保江先生のオンサーガー理論の導出法の解説を加えたりしている。が、こっちの方はまだ初版がたくさん残っているようなので、すでに出来ている第二版の出版にまでは至っていない。ペンディング状態である。

おまけ2:
ところで、科学研究において科学論文を公表する場合のことを考えてみよう。おそらくダマスゴミのテレビニュースだけを見て暮らしている普通の人は、科学の研究論文を科学雑誌、例えばネーチャーなどに論文を掲載する場合、ただでできると思っているのではないだろうか?むろん、掲載料をとる。新聞の広告料と同じ扱いである。大学や研究所にいる人間にとっては自分の研究が有名雑誌に載ることは名誉である。というわけで、掲載料をとる。「STAP細胞あります〜」の小保方晴子さんの場合でもネーチャーに嘘論文をたくさん出したが、ネーチャーなどの商業誌の場合には、1頁の掲載料は10万円くらいかかるはずである。普通の論文は4ページだから、最低でも40万円はかかるのである。だからネーチャーに載せるには大企業や大研究所や有名大学などふんだんに研究費のある山中教授のようなところでないと出せないのである。我々ベンチャー科学者やフリーの科学者にとっては日頃からお金を貯めて根性据えて投稿するほかないのである。むろん、一流雑誌でも自分で全部LaTexを使ってタイプセットし、pdfを掲載できる形に編集できれば、掲載料がただ、ないしは安いという研究雑誌もあるし、払えないなら払わなくても良いというリッチな友好的な出版社もある。たとえば、アメリカのPhysics Review Lettersなどがそういうものである。しかしながら、そういう出版社は今度読む方に負担がかかる。たった数ページから20頁程度の論文1本のために30US$を支払わなければ読めないのである。その論文が間違っていたとしても読むのに1人30ドルもとるわけだ。いったい小保方晴子さんの嘘論文を読むためにどれだけの負担を読者にさせたのだろうか?まあネーチャーは著者からも読者からも金とって儲かれば良いわけだから笑いが止まらない。論文の真偽などどうでも良いのだ。高額の掲載料をとるか、高額のダウンロード料をとるかのいずれかなのである。アメリカ人研究者の中でもこういう風潮が嫌になって有名雑誌にはもう論文を出さないという研究者も出てきている。自分で出版したほうが良いという意見である。その典型が、ロシアの大数学者ペレルマンだった。ペレルマンは自分の最先端の理論をアメリカの無料ダウンロードサイトにこっそり乗せただけだった。ペレルマンの名前を見てびっくりして読んだ研究者たちがその内容を勉強して、これが150年解けなかったポアンカレ予想の解だと知ったのである。そしてフィールズ賞を受賞したが、ペレルマンはそれを無視した。というように、今の現実は出版界だけではなく、科学界においても非常にまずい時代なのである。






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by kikidoblog2 | 2016-11-08 10:45 | ブログ主より

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