「日本の大学を評すると」:実学の東大、虚学の京大、独尊の名大、材料の東北、神の手の阪大!?
2019年 06月 01日
『風立ちぬ』予告編特別フィルム
みなさん、こんにちは。
さて、先日まあ、突発的に
伊藤清の数学と佐藤幹夫の数学:俺「いでよ、天才君!確率D加群を構築せよ!?」
をメモしたわけだが、この際、ついでにこの数十年間に私が個人的に、日本の大学を観察してきたり、その中の研究者や学者さんたちのやっていること、そのやり方、一般的傾向のようなものを見てきたことをまとめてメモしておこう。忘れない内に気がついた時にメモする形である。
基本的には日本の大学は東大と京大の2系統に分かれる。
まあ、歴史的にも一番最初に東京に東大だけができ、東大から東大ではできないことをやろうということで集まった学者さんたちが、関西に京大を作ったわけだから、毛色が異なるのは当たり前と言えば当たり前である。
その後は、この2大学から学者さんやそのお弟子さんたちが、大阪、東北、名古屋、九州、広島、北海道などへ進出していったわけだ。この辺の事情はだいぶ昔に「何が科学をつぶすのか」という拙著で説明した。
(あ)東大と京大の違いは何か?
そこで、二大巨匠大学である東京大学と京都大学の違いは何だと思うか?と聞かれたらどう答えるかということをメモすると、こうなるだろう。
実学の東大、虚学の京大
その大学の歴史的起こりからして、戦前の東大の学者はイギリスから学び、蒸気機関車を作ったり、飛行機を作ったり、ゼロ戦や戦艦大和を作ったりということで、最優秀の東大生は航空流体力学科(後の航空宇宙学科)に進学した。
だから、東大は現実にこの世界を変革するような実学ベースで発展した大学なのである。
それゆえ、経済学もまたイギリス発祥のケインズ経済学がベースになる。
この事情はあまり一般人は知らないかも知れないナ。
それに対して、そういう実学は政治家や政府とのつながりが過ぎて面白くない。もっとアカデミックで衒学的な純粋に学問だけをやりたいという学者としての願望を突き進めたいということで誕生したのが京大である。
だから、いわゆる虚学=実用的ではない学問、たとえば、純数学や理論物理学などが京大では好まれた。
それゆえ、経済学も、経済学の虚学の代表格がマルクス経済学である。だから、京大は共産主義思想の学者の根城になった。
いまも京大生には何年も留年してバリケードを立てる共産主義の学生がいる。
この事実もまたあまり一般人には知られていないかもナ。
というわけで、実学の東大、虚学の京大、これがこの段階でのキャッチフレーズだろう。
実際、東大には物性研究所(物性研)や産業技術研究所(産研)がある。
京大には、湯川秀樹の基礎物理学研究所(基研)、福井謙一の基礎化学研究所(化研)がある。純数学の数理解析研究所もある。
(い)国に例えれば?
次にその大学の色をどこの国の大学に似ているか?という見方で見てみよう。
この場合、
イギリス型の東大、フランス型の京大
ということになる。
東大は明治の開学の時代に大半が大英帝国の工学者がやってきた。だから、建学の精神からしてイギリス型なのである。だから、東大は、ケンブリッジとかオックスフォードに近い空気がある。
一方、京都大学はフランス型の抽象的思考を好む。それに若干フランスの隣のドイツが交じる。
あまり欧州の大学の傾向を知らない人には理解不能かも知れないが、欧州は島国のイギリス型と大陸の仏独型の2種類に分かれている。
フランスは理屈派で抽象的思考が好みである。
ドイツは理論武装派でやはり整然とした理論体系が好みである。
しかし仏独は同じカソリックで、ラテン系欧州人の系譜があり、地の利から交流が盛んである。スイスは仏語圏と独語圏が分断されているという。
それに対して、イギリスはそもそもプロテスタントで、カソリックとは相容れない思想を持っている。それゆえ、英国人は実学的で、理論よりも実験重視の傾向が高い。
だから、良い実験家はイギリスでたくさん生まれてきた。ファラデーは有名だが、マックスウェルも実験理論両方行っている。特殊相対論実験のモーズレー、一般相対論検証したエディントン、X線のブラッグ、。。。数多くの有名な実験野郎が輩出されてきた。
同じ実学的なドイツは、実験より先に理論が来てそれに基づいて実験をするというタイプに近いかもしれない。
ラテン系のフランス気質と、アングロ・サクソン的な英独の違いといえば、そんな感じでもある。
京大はそのフランス型だから、かなり多くの数学者や物理学者は戦前フランスに渡った。有名なのが岡潔である。フランスのジュリアの下へ行った。
東大は蒸気機関車の時代からイギリスへ留学した。文学でもそうで、夏目漱石はイギリスに留学している。南方熊楠もイギリスへ留学した。
一方、森鴎外はドイツへ留学したはず。
ついでにいえば、京大の岡潔の層理論を完成させたのはフランスのカルタンであった。京大の伊藤清の後継者もまたフランスのマリアヴァンであった。そして、京大の佐藤幹夫の後継者もフランスのシャピロであったようだ。そして、佐藤幹夫の一番弟子で昨年チャーン賞をとった柏原正樹の研究を一番評価したのもフランス数学界だったし、そもそも佐藤幹夫と同時代に同じようなことを考えたクロタンディークもユダヤ系フランス人だった。
(う)アメリカの大学はどうか?
ところで、アメリカはその欧州のすべての国々、それにロシアからもユダヤ系が流れた。だから、アメリカは欧州のほぼ全部を吸収したと言える。だから、捨てる神あれば拾う神ありでさまざまである。
簡単に言えば、東部(東海岸)がイギリス型、西部(西海岸)がフランス型に近いだろうか。まあ、ばらばらだから簡単に分けることは困難である。
いずれにせよ、アメリカの大学の発展はこの100数十年のことにすぎない。特にここ100年である。
100年前のハーバード大にはまだユダヤ人学者は一人もいなかった。第一号がノーバート・ウィーナーの父親のレオ・ウィーナーである。
それからこの100年でハーバード大の正教授の7〜8割がユダヤ系になった。
ちなみに、プリンストン大学の高等研究所は、第二次世界大戦でヒトラーから逃げたユダヤ人学者やユダヤ人妻のある欧州学者の中で有名な学者たちの避難場所として作られたのである。
だから、アインシュタインやゲーデルとか多くの天才がそこへ逃げた。
それを裏から支援したのが、実はノーバート・ウィーナーだった。
一方、ウィーナーのいたMITことマサチューセッツ工科大学は、第一次世界大戦の教訓から科学的に軍事を見直さないと戦争には勝てないということから、軍事技術を発展させるために生み出された新鋭の大学だった。特にウィーナーの時代になって、それが第二次世界大戦に向けてテコ入れされたのである。
つまり、MITは軍事兵器製造のための大学なのである。言い換えれば、MITの科学は軍事のためのものである。
日本国のTITこと東工大は一応このMITを真似ているが、戦後日本国憲法のために、米留学してアメリカの軍事は助けるが我が国の自衛のための軍事には何も助けないという伝統になっている。東大や京大もそうである。
日本の大学で一番アメリカの影響を受けたのは、おそらく理科大(東京理科大)だろう。私の母校である。
学部のスタイルはアメリカの大学の授業と演習のスタイル、日本では有名塾のやり方に近い。1時間講義を受けて問題演習を1時間講義されるというスタイルである。
(え)高校生へのすすめ
というようなわけで、もしあなたがいま高校生でこれからどういう学問を学びたいか、あるいは、どういう大学に行きたいか、それによって進学すべき大学は変えるべきだということになる。
この場合には、東大は応用ベースの実学が強く、京大はアカデミックな虚学である、数学や理論物理が強いということを知っておくべきだろう。
たとえば、経済学で言えば、東大は資本主義のケインズ経済学から派生した現代版。京大は、共産主義思想のマルクス経済学から発展した近代社会経済学。こういうふうな色がある。
物理で言えば、昔から(戦前から)東大は物性論が強い。京大は素粒子論や数学が強い。
当然、東大駒場は現代数学の巨匠も多いが、やはり応用に重点を置く人が多い。それに対して、京大は応用や実用などあまりかまわない。
面白い例が、先日メモした佐藤幹夫と伊藤清である。
二人共に東大出身の天才だが、純粋にアカデミックな数学しか興味なかったため、東大よりは京大の方が居心地がよく、結局京大教授として全うした。
ところで、名古屋と東北は意外とユニークである。
東北は東大の物理学者の長岡の原子模型の長岡半太郎が初代総長になったように、物理に重きを置くが、かなり応用物理中心である。特に電波技術とか、磁石とか、物質マテリアルの物理が中心になっている。
レーダーの最重要技術である八木アンテナは東北から生まれた。
名古屋は最近ノーベル賞の益川が出たように、東大京大ほど規模は大きくはないが、東大や京大の喧騒をはなれて独自の主義主張で自分の道を行くタイプの研究者が多い。この意味でかなりユニークである。
名古屋の数学は、大半が東大出身者である。だから、一応、東大型の準東大が名古屋だといえる。
名古屋はトヨタがあるように、この空白の20年を全く感じていない唯一の場所である。たぶん、ひょっとしたら、マツダのある広島もそうかもしれないが。
この20年のデフレ時代もっとも豊かな人生を歩んだのが名古屋である。だから、金のかかるフィギュアスケートの大半が名古屋から生まれたわけだ。
科学もそうで、名古屋の研究者は非常にこの20年頑張ったといえる。今後のノーベル賞の呼び声の高い人は名古屋で仕事している場合が多い。ちなみに、保江邦夫は京大院から名大院に転校した。
やはり大学のアクティビティーはその地元の経済事情と絡んでいるから、大企業が近くにあるかどうかは重要な要因である。
学生の卒業後の就職先も地元に大企業があるかないかは死活問題だろう。
おっと私の母校の阪大を忘れるところだった。
阪大はかの緒方洪庵の適塾がその前身である。だから、何よりも医学系が強い。
神の手の外科医になりたければ、阪大に行け。
これが乗じて「白い巨塔」のモデルになってしまったが、現実問題として、阪大にはゴッドハンドの本当に優秀な外科医が多い。
物理は医学と比べればそれほどたいしたことはないが、準東大型であろう。かつて湯川秀樹や大阪市大に南部陽一郎がいたが、ベースは永宮の物性論だろう。だから、物性理論や生物物理がさかんである。
ついでに、九州大学は、ウィーナーの日本の弟子だった北川敏男が作った大学だから、統計学や確率論、今で言えば、応用数学のような感じのメッカになっている。
数理生物学とか、数理物理学とか、それも現実社会への応用を目指したものが多いようにみえる。
(お)結論
とまあ、そんなこんなで、
実学の東大、虚学の京大、ゴッドハンドの阪大、自由気ままの名古屋、農業の北大、金属材料の東北、統計数理の九州、平和利用の広島(?)という感じかナ。
まあ、独断と偏見でまとめたわけだが、何がしかの参考になれば幸いである。
頑張れ、ニッポン!
by kikidoblog2 | 2019-06-01 22:59 | 個人メモ