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「異世界から来た」論文を巡って:望月新一による「ABC予想」の証明と、数学界の戦い2   

(つづき)

異世界から来た論文をめぐって
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困惑という希望

望月教授のフロベニオイドという概念により説明されたABC予想は、驚くべきと同時に好奇心をかき立てられる発明だった。だが、それ自体によって最終的な証明がどうなるのかまで説明されているわけではない。

しかしカンファレンスに集まった数学者たちは、このケドラヤによるフロベニオイド概念の講演により、望月の手法がスピロ予想の定式化にどのようにつながるかについて、初めてその真意を理解した。ただ次のステップこそが重要である。この証明を説明するために、フロベニオイドによる転換がいかに「新しく、かつ有効な手法」なのかが示されなければならない。

論文について講義を行う望月の高弟の1人、京都大学数理解析研究所講師・山下剛。
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この手法は望月教授が発表した先の「4つの論文」に記されていて、それがカンファレンスのラスト2日間の議題となった。この論文の説明を担当したのは、パデュー大学のチャン・パン・モクと、京都大学数理解析研究所の星裕一郎と山下剛だ。3人は、IUT理論の理解に集中的に取り組む数少ない数学者である。しかしだれも、彼らの話にはついていくことができなかったという。

テキサス大学オースティン校の数論学者フェリペ・ ヴォロックは、同カンファレンスに出席し、5日間にわたる様子をGoogle+に投稿している。彼はコンラッドと同様、ブレイクスルーを期待して木曜の講話を聴講したがそうはならなかった。4日目の最後の方に、彼はこう投稿している。「午後の休憩時、参加者すべてが戸惑っていました。わたしは参加者たちとたくさん質問を交わしましたが、誰も手がかりを掴めていませんでした」。専門用語の嵐だったと、コンラッドはその心情を語った。

「そうなってしまったのは、その考え方自体に困惑したからではありません。講演という短い時間に提供された情報量があまりに多過ぎたということです。この研究に関する背景知識をもたない参加者たちとも話をしましたが、みな完全に途方に暮れていましたね」

フロベニオイドがIUT理論でいかに用いられるかを説明する最後の講演が失敗に終わったことは、予測できたと考える参加者は多い。

代数方程式について参加者と議論を交わす山下と、望月の研究室から参加したもう1人の京都大学数理解析研究所講師・星裕一郎。
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「最後まで理解できるという僅かな望みもあったとは思います。ただ、あの部分は原論がより難解になっています。だから、わたしの後に担当した発表者に責任がある訳ではないのです」とケドラヤは語った。
最後の講演が失敗に終わった背景の一部には「文化の違い」もあった、とキムは考えている。説明を担当した山下と星は、2人とも日本人だ。「日本では、数学者がプレゼンテーションを行う場合、用語の定義を絶えず続ける傾向がある。文化的違いが現れたのです」とキムは言う。「忍耐力と集中力が必要とされる、内容が濃く詰まったスライドが、日本では受け入れられるのです。一方、アメリカの場合は弁証的で双方向なスタイルが好まれます」

このカンファレンスを通して、一部の人が実際に期待していたような明白な結果が得られなかった一方で、理解への一歩という点では、前進があった。ケドラヤはカンファレンスの後により多くの知識をもつ人と連携する意欲がわき、今年7月京都大学で行われる次のカンファレンスに参加する予定だという。
「この僅かな前進でも悲観してはいないんです」とケドラヤは言う。「もっと期待はしていましたが、少なくとももう一度カンファレンスを開催し、さらに先へ進むことができるかを確認する価値があると思っています」

一方で、自身の研究について望月教授に詳しく説明する責任があると考える人もいる。ファルティングスはEメールで「個人的には、望月自身がみんなが理解できる論文を書かなければ、解決しないという印象を受けました」と書いている。

キムはその必要があるとは考えていない。カンファレンスが終わりオックスフォードを離れた後、参加者が抱いた“困惑”について彼はじっくり考えた。彼によると、それはよい困惑であり何かを学んでいる最中に訪れるものだ。

「このカンファレンスに先立ち、ほとんどの参加者が論文に書かれた望月教授の試みに関して予備知識が足りなかったようです」とキムは言う。「先週のカンファレンスではみな戸惑っていましたが、望月教授がやろうとしていることの概要はつかめたと思います。どうしたらそれを完全に理解ができるのでしょうか? それはあいまいな質問かもしれません。ただ疑問は増えましたが、1つひとつがより洗練されたことは疑いようがないのです」

【2016年7月18〜27日にわたって、京都大学数理解析研究所で、IUT理論に関する国際共同研究「IUTサミット」が行われる。望月、山下、星を含む17名が講演を行う予定。詳細はこちらから。】


本文は結構長いが、私が特に興味を持ったのは、望月新一博士の指導教官であった。

エド・ウィッテン
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ではなく、モーデル予想(今はファルティングスの定理と呼ばれる)を解いた
ゲルト・ファルティングス博士
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だったことである。

また、最後のセクション「困惑という希望」の中に、望月先生のブログの中に出てくる「複雑度の爆発」という話と可朝寝ることがあるから面白い。

この手法は望月教授が発表した先の「4つの論文」に記されていて、それがカンファレンスのラスト2日間の議題となった。この論文の説明を担当したのは、パデュー大学のチャン・パン・モクと、京都大学数理解析研究所の星裕一郎と山下剛だ。3人は、IUT理論の理解に集中的に取り組む数少ない数学者である。しかしだれも、彼らの話にはついていくことができなかったという。

テキサス大学オースティン校の数論学者フェリペ・ ヴォロックは、同カンファレンスに出席し、5日間にわたる様子をGoogle+に投稿している。彼はコンラッドと同様、ブレイクスルーを期待して木曜の講話を聴講したがそうはならなかった。4日目の最後の方に、彼はこう投稿している。「午後の休憩時、参加者すべてが戸惑っていました。わたしは参加者たちとたくさん質問を交わしましたが、誰も手がかりを掴めていませんでした」。専門用語の嵐だったと、コンラッドはその心情を語った。

「そうなってしまったのは、その考え方自体に困惑したからではありません。講演という短い時間に提供された情報量があまりに多過ぎたということです。この研究に関する背景知識をもたない参加者たちとも話をしましたが、みな完全に途方に暮れていましたね

「最後まで理解できるという僅かな望みもあったとは思います。ただ、あの部分は原論がより難解になっています。だから、わたしの後に担当した発表者に責任がある訳ではないのです」とケドラヤは語った。

最後の講演が失敗に終わった背景の一部には「文化の違い」もあった、とキムは考えている。説明を担当した山下と星は、2人とも日本人だ。「日本では、数学者がプレゼンテーションを行う場合、用語の定義を絶えず続ける傾向がある。文化的違いが現れたのです」とキムは言う。「忍耐力と集中力が必要とされる、内容が濃く詰まったスライドが、日本では受け入れられるのです。一方、アメリカの場合は弁証的で双方向なスタイルが好まれます

一方で、自身の研究について望月教授に詳しく説明する責任があると考える人もいる。ファルティングスはEメールで「個人的には、望月自身がみんなが理解できる論文を書かなければ、解決しないという印象を受けました」と書いている。

「このカンファレンスに先立ち、ほとんどの参加者が論文に書かれた望月教授の試みに関して予備知識が足りなかったようです」とキムは言う。「先週のカンファレンスではみな戸惑っていましたが、望月教授がやろうとしていることの概要はつかめたと思います。どうしたらそれを完全に理解ができるのでしょうか? それはあいまいな質問かもしれません。ただ疑問は増えましたが、1つひとつがより洗練されたことは疑いようがないのです


まさに「複雑度の爆発」のせいで、いかに現代数学者が「お前はもう死んでいる」状態に晒されたかが分かるだろう。

まあ、いつもそうで、本物の新理論が現れたときはだいたいこんな感じになる。

カルノーの熱力学理論、
ガロアの理論、
リーマンの幾何学理論、
アインシュタインの相対論、
ハイゼンベルグの行列力学、などなど。

いつも新概念の目白押しで、旧世代はついていけなくなった。

今回もまったくそれと似た現象が起きているようである。

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新しい科学的真理は、反対者たちを確信させることや真理の光を垣間見させることによって勝利するのではなく、むしろ反対者たちが最終的に死に絶え、新しい真理に親しんだ新世代が育つことによって勝利するのである。ーマックス・プランク

まさにプランクの言葉通りの展開になるものなのである。

それから1年の月日が流れ、ようやく皆さんが納得したということなのだろうか?


科学者ほど保守的である。というのは、物理だけでなく数学でもどこでもそうなんですナ。



いやはや、世も末ですナ。





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by kikidoblog2 | 2017-12-27 11:29 | 望月新一・心の「一票」

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