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ダイソンの妄想と俺の妄想:リーマン予想からABC予想まで。「数学は一つ」かも!?   

みなさん、こんにちは。

ここ最近、プリンストン出の京大の数学者、望月新一博士の研究をちょっとメモしたが、前から思っていたのだが、彼の分野を理解しようとするとどうしても普通の微積分や線形代数を超えた、もっと現代的な(ブルバギ的)な代数学の本で、基本的なネーミングを理解しなければ、まず論文が読めないのである。

そこで、24年前まだ理研にいた頃買ったんだが、サージ・ラング(Serge Lang)というアメリカ人(おそらくロシア系ユダヤ人)の書いた代数学の教科書がある。

残念ながら、この四半世紀待っても一向に日本語訳が現れない。日本の数学者も物理学者同様実に「怠慢」ですナ。こういう素晴らしい本はすぐに日本語に翻訳するべきである。

しかしながら、世はグーグル翻訳の時代。まだ1冊の本をいきなり全部日本語に変換はできないようだが、少しずつならそういことも可能になった。

あとは原稿のpdfがあれば良いというだけらしい。

そんなわけで、昨日、試しにひょっとしてこのラングの代数学のpdfがあるんじゃないかと探した所、

ビンゴ!ぴんぽ〜〜ん!

あった、あった、やっぱりあったのである。

これを一応メモしておこう。以下のものである。

(あ)https://math24.files.wordpress.com/2013/02/algebra-serge-lang.pdf
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見た所、私が買った25年前のものとほんのわずかの箇所だけが違うが、99.9%は同一。もっとも出版社がAddison-WesleyからSpringer-Verlagに変わったらしい。アメリカからドイツへ渡ったのだろう。

私はスプリンガーの黄色よりは、アディソンのライトブルーの方が好みだが。


まあほとんどは理解できない純粋数学なのだが、この本は「ABC予想」にチャレンジできるように作られたとしか思えない。

つまり、望月新一博士のような「ABC予想」フリークを生み出すためにの教科書である。

ぜひ若い数学好きの皆さんはこの本を学んで俺に教えてくれ。


冗談は吉本。


ところで、この本を探す合間に偶然みつけた以下の解説文も実に興味深いものだった。

(い)Birds and Frogs ー Freeman Dyson

それとこれ。

(う)From Prime Numbers to Nuclear Physics and Beyond
By Kelly Devine Thomas · Published 2013
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望月新一博士は「ABC予想」を解こうとしているが、もうひとつの難問が「リーマン予想」である。

リーマン予想を解くと、アメリカのクレイというスパコンの会社から1億円の報奨がもらえる

へ?世紀の大問題が、たった1億円???

というわけだが、(う)はこのリーマン予想に関する論説である。

一番驚いたのが、その最後の最後にフリーマン・ダイソンが出ていたことだ。

このダイソンは、朝永振一郎、リチャード・ファインマン、ジュリアン・シュウィンガーと同レベル以上でノーベル賞に値したが、4人目の椅子に座り、結局ノーベル賞を得なかったという大損(だいそん)だったと我が国ではジョークのネタにされた数学者である。

このダイソンがその量子電気力学のあとにやり始めたのが、ランダム行列の理論というものであった。

この問題の端緒はやはり大数学者のウィグナーが、物性でいえば、ランダムポテンシャル中の電子の問題、数学でいえば、ランダムな係数をもつ微分方程式の固有値の問題、を計算していくうちに、有名な「ウィグナーの円周定理」を発見する。

これは固有値の分布(エネルギーの状態密度)が半円状に分布するという奇妙な定理である。

ウィグナーは原子核のエネルギー分布を決めるために始めた研究であったが、原子核がどろどろしてランダムに揺らいだ状態を記述するために、そういう核子の集団を扱うための固有値問題として、ランダムなゆらぎのある固有値問題を考えたのである。

ところが、ガウス型のランダムと入れるとどういうわけかいつも普遍的に円周定理が導かれる。

この問題に円熟したダイソンが取り組んだ。

そこでいくつか有名なランダム行列の理論を生み出し、後半ではインド人のメータといっしょに共同研究を行った。そして、その結果を有名な「ランダム行列」の専門書として出版した。

この中では見事にウィグナーの円周定理も導き、かつよりさまざまの場合に一般化している。

さらには物理の問題とのアナロジーも使い、統計力学の1次元気体の問題との接点などを論じたわけである。

この問題では、ウィグナーが固有値と考えたものを、1次元の粒子の座標と見直すと、固有値間の干渉が粒子間の相互作用のように見ることができるという観点が用いられた。

そして極めつけは、エネルギー分布の相関関係を導いた。

この理論はその後、私の師であるビル・サザーランド博士が1/r^2で長距離相互作用する1次元の多体粒子系の量子力学や統計力学の厳密解を導き、その時に、リバイバルすることになった。これがカロゲロ-サザーランド模型と呼ばれるものである。(ちなみに、この話は上の解説では意識的に端折られている。)

そして、その後ソリトン分野が発展していって再発見されて、いまでは多体の量子可積分系として古典とあいなった。

ところが、数学の分野ではリーマン予想の数値計算が発展し、またリーマン予想のブームが再来していた。そして、数学者のモンゴメリーがリーマン予想の問題となるリーマンのζ(ぜーた)関数のゼロ点の分布を計算したところ、そのゼロ点同士の分布の相関関数の式がダイソン-メータのランダム行列の固有値分布の相関関数の式とどんぴしゃり一致したというわけだ。

そこで、若い数学者のモンゴメリーがダイソンにその研究を聞きに行ったという。

そしたら、ダイソンが書いたものが、上のメモ。


というわけで、どういうわけか、リーマン予想の問題とランダム行列の問題が関係があるらしいということになったわけである。

それから数十年世界中で多くの研究論文が出たがいまだにリーマン予想は解決していない。(まあ、最近、解決したという論文も出たらしいが。)

こういうことを解説しているのが上の(う)の解説である。

まあ、この辺りはこの問題を知っている人には周知の事実にすぎない。だから、それほど驚くことでもない。

何が興味深いかというと、その後のダイソンが最近になって、

1次元の準周期系の問題を研究せよ!

と若い数学者に主張しているという部分である。これが書かれていたんですナ。

これって、私の博士論文のテーマじゃないですか?

1次元準周期格子の理論

これで私は博士になったのである。

そしてこの理論に基づき、それを拡張し、生物のDNAやタンパク質配列の電子状態を計算する方法を見つけるために富士通や理化学研究所に行ったのだった。

ついに俺の時代が来たのか?

世界がやっと俺に追いついてきたのか?


冗談はよし幾三。


というわけで、ダイソン先生はいまは準周期系をあのポール・スタインハーツといっしょにご研究されたのだとか。

このポール・スタインハーツ教授は、私がユタ大でPhDになった直後に彼のポスドクで採ってくれる手はずだったんだが、なんとそこへ東大の同業者が物見遊山で遊びに来てしまい、見事に蹴散らされてしまったんですナ。

だから、しょうがなく帰国したわけだ。

その後、富士通時代に出した論文で、1次元準周期系の問題では、穴の開いたリーマン面上の関数として電子状態である波動関数が書けるということを発見し、東大の初貝博士が米国留学する時の手土産に私の論文別刷りを持っていけと差し上げた次第である。

というのも、1昨年ノーベル賞を取りそこねた甲元真人先生の助手をしていたからだ。私はユタに行く時とユタ大の最初の2年ほど甲元先生に非常にお世話になったからである。

その後、初貝博士はカリフォルニアのUCバークレーだったかスタンフォードだったか、そこの研究者と一緒に研究し、リーマン面の穴とエッジ状態が関係するということを発見し、非常に有名におなりになられたのであった。おろらく彼の出世作になったはず。

リーマン面となるとコホモロジーが必須。そこで代数学を勉強せねばということになり、ラングの本に行き着くわけだ。

すると、リーマン面の拡張系が望月博士のやっている現代代数学の数論幾何のテーマになるわけだ。

その頃、私の妄想を論文にしたのがこれだった。

Kazumoto Iguchi, "Universal Algebraic Varieties and Ideals: Field Theory on Algebraic Varieties", Int. J. Mod. Phys. B11, 2533-2592 (1997)(23.1M)

この論文はまったく引用がない。が、その主張は明快。
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要するに、物理のあらゆる分野の理論には普遍的に同じ構造が現れる。それは、代数多様体上の「場」の理論ということだ。物理の分野とは、採用する多様体の違いにすぎない、というのが私の結論であった。

とまあ、これが当時の若かりし日の俺の数学的妄想であった。

このときにはリーマン面には穴があってもパンクはないものだけを考えたが、むろん、パンク=パンクチャーを考えたものも考えることができるが、それには望月博士の分野の知識が必須になる。

望月博士の論文でてくる昔の数学者の名前はすべて見覚えがあり、私がユタにいた頃、いつも行っていた物理学部のすぐ隣の数学部の図書館の中で本の虫になって読んでいた、数学者と同じ名前なんですナ。

というのも、私の1次元準周期格子の理論の基本概念は「無理数の分類」という数論の問題から来たものだからである。数学者が無理数を分類する際に、さまざまの数学の手法を使うんだが、そういう数学者が準等角写像とか、上半面の双曲空間を使うとか、モデュラー変換を使うとか、いろいろのことをやるわけだ。

それがその後、高エネ理論の超ひも理論とか、ABC予想のIUタイヒミュラーとかで使われているわけですナ。

物理は一つ

という言葉があるが、これは物理学は根底において一つのもので、様々の分野は奥底で繋がっているという意味だが、ひょっとしたら

数学も一つ

なのかもしれないですナ。

俺が生きているうちに、リーマン予想が解決されてほしいものである。



いやはや、世も末ですナ。




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by kikidoblog2 | 2018-11-27 10:16 | 望月新一・心の「一票」

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