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物理学を学ぶ3つの道:「物理数学」、「微分幾何学」、「確率論」の三種。俺は第3の道が好き。   

"Nature controls everything, even in an atomic scale
as Buddha recognized a long long time ago."
by Kunio Yasue from " It Appears!".

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「神の物理学」4:「2つの遺言」→「神の物理学」に込められた「2つの遺言」を解き明かすものは誰か!?



みなさん、こんにちは。

さて、もう一つメモしておこう。今回は物理や数学に関する個人的メモだから、おそらく普通の人には関係ないからスルーして欲しい。


現代物理を学ぶ場合、おそらく2つの方向がある。普通のやつも含めたら3つかもしれない。

(1)現代物理数学から入る方法=普通のやり方

これは、いわゆる物理学者用の「物理数学」というものを学んで物理の教科書を学ぶというやり方。これが普通の大学、大学院の授業や講義の十八番である。

(2)現代微分幾何学から入る方法

これは、のちのち一般相対性理論を学ぼうとして、トポロジーとか微分幾何学とかを学んでいって、素粒子論や場の量子論や超ひも理論を勉強していこうというようなやり方。おそらくいま現代では花形の主流のやり方。

この分野は先日なくなったアティヤーのアティヤー・ジンガーの指数定理とか、微分形式とか、コホモロジー理論、ホモロジー理論とか、トポロジーとか、いわゆる数学の多様体論とかのテーマと結びつく。

この最先端が望月新一博士のIUT理論であると言えるかも知れない。いずれにせよ、普通の「最先端数理物理」と普通の科学者が思う分野はこれだろう。

(3)現代確率論から入る方法

これら2つの従来の学び方に対して、ある意味では「異端的」なやり方が、おそらく保江邦夫博士が見出した方法であるかも知れない。

これは、最初に確率論から出発する方法である。確率論でも順列組み合わせという古典確率論から出発するのではなく、コルモゴロフの現代確率論とその拡張である伊藤清の確率微分方程式から出発するやり方である。

まずは最初に確率空間とσ代数という抽象概念から出発し、あらゆるものを確率というもので見直すという物理の一派である。この延長線に、ネルソン・保江の確率量子化論の方法がある。

これでみると、湯川秀樹の素領域理論も手中に入るし、またアインシュタインの一般相対論もその手中に組み込むことができる。とまあ、保江邦夫博士の初期の研究とはそういうものであった。


面白いのは、ついでに加えると、(たぶん私しか知らないかも知れないが、あるいはもうだれも関心を惹かないからそうなのかも知れないが、)保江先生が東北大学部の天文学科から京都大学理学部物理へ進学した際に指導教官となった故長谷川洋教授の生涯のテーマは、非線形統計力学の確立というものだったのだが、仲違いして保江邦夫はすぐに名古屋大学物理の高林武彦のところへ移動してしまったわけだ。

だから、本来なら、京大の長谷川洋の思想圏にある非平衡統計物理の完成こそ保江邦夫の修論になるべきものだったと思うが、そこから逸脱して湯川秀樹の素領域理論をネルソンの確率量子化の手法で行うというテーマで名古屋で修士、博士の系3〜4年で8本の論文をお作りになった。

それからスイスに行って、パウリの最後の弟子となったポール・エンツ教授のもとで確率量子化の理論を極めていったのだが、そこで出会った自分と同い年の弟子ザンブリニと研究をするうちに、確率量子化とファインマンーカッツの積分公式との関係に気づいていったわけだ。そんな中、素粒子理論として自分がやっていたネルソンの確率量子化の理論が、そっくりそのままオンサーガーの不可逆過程の理論の有名なオンサーガーーマクラック公式を導くことに気づいたわけだ。

そして、ザンブリニがシュレーディンガーの無名の論文を発見し、そこで展開された思想圏がその後、コルモゴロフの後継者になったベルンシュタインにより現代確率論のベルンシュタイン過程というウィーナー過程の後継の発展形として生まれ変わっていることまでみつけ、ついにベルンシュタイン過程に基づくファインマン・カッツ理論を構成することに成功したわけだ。これを保江とザンブリニは「熱子力学過程」と呼んだ。

ところが、そうしてみると、この保江・ザンブリニの熱子力学過程の結果は、保江邦夫が最初に指導を受けた長谷川洋の生涯のテーマであった非平衡非線形統計力学の完成版にあたるものだったのである。

不思議なことは、とうの保江邦夫自身がこの事に気づいていないし、ザンブリニはもちろん知る由もない。知っているのは私だけなんだな。

というわけで、結果的に保江は自分の指導教官とは全く別の道に進んだと思っていたその最後の最後に実はその指導教官の問題を実質的に解いていた。

この1970年代当時の我が国(だけではないが欧米も)非線形の不可逆過程の理論をオンサーガー理論の拡張という意味合いで解きたいという一種のブームになっていた。流行には背を向ける保江邦夫は流行は追わなかった。

だから、まずネルソンのブラウン運動の教科書を読み、そこで伊藤清の確率論と確率微分方程式を学び、さらにネルソンのテンソル解析や超準解析の教科書を学び、最後にスイスでフレミング・リッシェルの確率制御理論の教科書を学んだ。まあその前に、東北時代に学んだヒルベルト空間論や高階複素関数論などがある。

つまり、保江の勉強歴をみると、大筋では

鶴丸孝司→伊藤清→ネルソン→フレミング
ヒルベルト空間論→確率論→確率量子化論→確率制御理論


となるわけだ。

実はこの学び方こそ、保江邦夫先生のもっとも保江邦夫らしい部分を作り出した「奇跡的」部分だったのではないか?

これが私の見たところである。

つまり、物理の学び方に「一番最初にヒルベルト空間論を持ってきて、そこから確率論を学び、物理数学を組み立てる」というようなやり方もありうるということである。

というのも、ウィーナー過程を無限次元ヒルベルト空間論とみることができるからである。確率過程とヒルベルト空間論は非常に相性がいいのである。

こうして現代的な確率論を身につければ、そこから先はどの分野へ行こうがまったく容易になる。生物へ行こうが、物理の熱力学に行こうが、この世の全てにはあいまいさやゆらぎや誤差があるから確率論となる。制御理論然り。当然、いうまでもなく、微分幾何学やトポロジーですらそういうことがあり得る。

確率的アティアー・ジンガー指数定理すら存在するかも知れないわけだ。多様体が揺らいでいる場合とか、ジーナスの個数がランダムに変動する多様体の確率論とか、そういうものも当然ありえる。

というわけで、(1)は私が大学大学院で学ばされた従来の古い物理学のやり方なのだが、それが「現代的」の名のもとに(2)の微分幾何学や代数多様体論のやり方、すなわち、「物理法則の幾何学化」というのが現代的物理という方向になり、この分野のレジェンドがエド・ウィッテンなのだが、それ以外に(3)の現代確率論から進む道も有力なやり方なのである。このレジェンドが「確率変分学」「保江方程式」を生み出した保江邦夫博士だということもできるのである。

むしろ、私の理解では、この第3番目の方法こそ、これからの主流となるべき方向ではないかと最近思うのである。

「確率」とは何か?

この理解があいまいなために「量子力学の確率解釈」も本当は大分前に解決されているのにいまだそれが共有されていない。

我々の統計熱力学では、故伏見康治博士が「確率論」の中で述べていたことにすぎないが、せいぜい順列組み合わせの「延長」としての確率論しかない。まあ、それでもギブスの統計力学やオンサーガーの理論程度のものは行える。物性理論にでてくるもの、あるいは統計力学に出てくる確率というのはそんなものである。これでは本当の理解は進まないだろう。

というわけで、私個人としては、この第三の方法で理論物理を学ぶ若者がたくさん出てきてくれることを願っているというわけだ。すなわち、保江邦夫の弟子、後継者がたくさん出てきて欲しい。

むろん、私もそう信じて学んできたわけだが、やはり理論物理も将棋と同じで若くないとだめという面もある。将棋は30台が全盛。50すぎればただの人だとか。同様に数学者も20台。40すぎればただの人という面も無きにしもあらず。

集中力を要する証明や計算は若くないと正確にできなくなるのである。

俺なんか、最近は何冊読んでもなかなか頭に入らないし入り切らないし入ってもすぐ出てしまう。

確率論も20台までに身に着けないとそれが実感として自分の言葉のように、まさに陰陽師の呪文のように奏でる保江邦夫の確率論の言葉のように扱えないのである。

何度読んでもσ代数と確率空間で躓くからナ。まあ、個人的メモだから、スルーしてチョ。



いやはや、世も末ですナ。






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by kikidoblog2 | 2019-02-06 11:48 | 保江邦夫・素領域・愛魂

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