ユージン・スタリコフ博士に乾杯!:ご出版、おめでとうございます!
2019年 04月 15日
Seht, hier kann man keine Furcht mehr tragen,
selbst das Fragen haben wir verbannt,
Nur wer gläubig bleibt in solchen Tagen
hält dem gnadenlosen Schicksal stand!
See, here you can no longer bear fear
even the questions we have banished,
Only those who believe in such days
holds the merciless destiny!
見よ、
ここで君はもはや恐れることは何もない
私たちが追放した疑問さえも。
そのような恐れの日々を信じる人たちのみ
無慈悲な運命を保持するのだ!
ーーユーゲニ・B・スタリコフ
みなさん、こんにちは。
だいぶ前にスタリコフ博士についてメモしたことがあったはず。これであった。
E.B.スタリコフさんの新著発見!?:なんと彼もインデペンデントフリーランス科学者になっていた!?
この中で、スタリコフ博士の本がもうすぐ発行されるということをメモしていた。が、ついにそのご著書がアマゾンでも公開されたようだ。4月2日刊行。以下のものである。
A Different Thermodynamics and its True Heroes
アマゾンA Different Thermodynamics and its True Heroes (英語) ハードカバー – 2019/5/5
Description
The first and foremost general purpose of publishing such a book would be to pay the due tribute to the colleagues, whose results in the field are undoubtedly seminal, but they were and still are remaining ‘widely unknown’. Therefore, first of all, the book presents in detail the life stories of the colleagues. Moreover, learning about the combination of the contributions by all of the book’s protagonists might help motivated young researchers in their work on finally building up the logically consistent field of thermodynamics. It looks like the very first thermodynamics’ book of such a kind.
Readership
Students at any imaginable level, researchers (both academic and industrial ones). The last but not the least: A general readership interested in the History and Philosophy of Scientific Research.
さてこの本はすでにグーグルブックスでもみることができるようだ。これである。
A Different Thermodynamics and its True Heroes contents
これをみたところ、杉田元宜博士の論文や福井謙一博士の論文、そして私の論文など日本の物理学者や化学者の研究も引用してくれたようだ。どうもありがとう、スタリコフ博士。
900ページに近い分厚い熱力学の本。それも一般の物理学者が歴史の中で葬った研究者たちのアイデアをつぶさに発掘し、再構成する知性。これはなかなか私のような愚才にはできそうもない。
また、英仏独ロ西日と数か国語があっという間に堪能になってしまうというユダヤ系独特の脳みそがないと、なかなか多国籍の研究者の論文をくまなくリサーチすることは不可能である。すくなくとも英語だけで、日本語だけでも不自由な私からすれば、そう思う。
若い研究者は、来るべき世界のためにこういう不思議な魅力に溢れた本を読んで勉強すべきでしょうナア。
こういう歴史的著書に私の論文や名前も載った。それもノーベル化学賞の福井謙一博士や生物物理学会の創始者杉田元宜博士といっしょに載った。こういうのは、恐悦至極の至ですヨ。ほんと。もういつ死んでも構わないナ。
この数ヶ月は、いわゆる量子力学の散乱理論と不可逆過程の熱力学との類似性に興味を持ち、ウィーナー積分やァインマン経路積分法やネルソン保江の確率量子化法やディラックの量子力学や朝永振一郎の量子力学や小澤不等式とか、いろいろ量子力学の基礎論を勉強してきたのだが、まだまだしっくりいかないところがたくさんありますナ。
かつて朝永先生が戦時中にマイクロ波送信機の研究をしていたとき、ハイゼンベルクのS行列の論文をUボートで送ってもらって研究したことが非常に役に立ったという伝説がある。これが後の散乱理論の雛形になっていったわけだ。
散乱現象はまさに過渡的現象なのだが、系の記述は固定された閉鎖系として扱われる。一方、熱力学の過渡的現象は、つまり、不可逆過程の熱力学は、開放系として扱われる。同じ過渡的現象だが、そしてかたや量子散乱、かたや化学反応というともに一過性の現象を扱うわけだが、その扱い方が前者はギブスの量子統計力学、後者はオンサーガーの不可逆過程の理論を使う。我々は、同じような問題を量子統計力学とその拡張として取り扱おうとしてきたわけだ。このあたりにしっくりいかないところがある。
我々の持っている=知る物理学の理論にはあまたなるこういうしっくり行かない部分がある。それを無視して、例えば、ブラックホールを初めて可視化したといってもよいが、そういうまえにその土台をやはり堅固なものに変えなければならないのだろう。が、それが非常にやっかいなんですナ。
まあ、量子力学でも、拡散方程式とシュレーディンガー方程式は非常に似ているが、その厳密な関係というのがどうもまだしっくりいかないのである。ディラックーファインマンーカッツ流とネルソンー保江ーザンブリニ流では何かしっくり行かないのである。
昔の学者は偉かった。
最初にハイゼンベルクーボルンの行列力学とドブロイーシュレーディンガーの波動力学が別々に誕生したが、その後、すぐに両者のしっくりいかないところをシュレーディンガーとディラックが変換理論を作って補った。
今思えば、どうしてこういう事ができたのか不思議ですらある。
今の風潮なら、ハイゼンベルク学派はそれだけでエキスパートになり、シュレーディンガー学派はそれだけでエキスパートになり、両者は別々に発展するだけ。いつまでもそのしっくり行かない部分はそのまま残される。ディラック学派はその学派で伝承される。こんな感じではなかろうか。
考えてみれば、こういうのを統合したという意味では、やはりニールス・ボーアの存在はかなり重要だった。そして有名なソルベー会議。ボーアがいなければ(そしてアインシュタインもいなければ)、そのまま派閥で喧嘩してどれもが自分が正しいと主張して終わったのかも知れない。
最近よくこんなことを考えるようになった。年ですかナ。
いやはや、世も末ですナ。
いずれにせよ、ユージン・スタリコフ博士に乾杯。ご出版、おめでとうございます!

by kikidoblog2 | 2019-04-15 12:34 | 普通のサイエンス