「解析熱力学」出版:熱力学における「世紀の奇書」Rational Thermodynamicsがついに日本語になった!
2019年 07月 22日
ところで、ここ2年半ほどずっとしこしこと翻訳を続けてきた、昔の古書の翻訳がやっと製本化されることになったので、一応ここにもメモしておこう。まだアマゾンにはないが、そのうちできる予定である。
最初、2年前に幸いにも海鳴社から出版できそうだったんだが、海鳴社は保江邦夫博士の文体や他の名のしれた名文家の文体を好むようで、私の直訳的こなれていない悪文は出版できないとのことで、だいぶ意気消沈し、それから1年以上の翻訳し直しを行い、さらに他で忙しくなって、なかなか本にする意気込みが失われていたわけだ。
それでも生きているうちが花と、オンデマンド出版でも本にしておくのが良かろうということで、いつもの通り、新潟の太陽書房からの出版と相成った。以下のものである。
解析熱力学 - 熱力学基礎理論に関する連続講義 ‐
クリフォード・トルスデル著井口和基訳
ところで、アマゾンなどのネット経由で紙の本を注文すると、その著者には印税が減ってしまう。直接出版社から注文すれば、印税はその2倍程度になる。
というわけで、著者としては、出版社経由で直接ネット注文してもらいたい。これがすべての著者の願いなんですナ。
できるだけ、GAFAは使わない。連中はそれぞれの国家へ税金払わないからナ。
なぜなら、国というものを滅ぼすためにNWOが育成した会社なんだからサ。
さて、最近偶然にこのトルスデル博士のことを書いた、昔の記事を見つけたんだ。以下のものである。
第4回国際レオロジー会議に出席して
この中で、トルスデルの話が出てくる。そこだけ引用しておこう。
堀 尾:それからBingham MedalをもらわれたTruesdellという先生は、僕は、名まえは拝見してますけど、われわれケミストが、読みにくい論文を書いておられ る。で、帰りまして、このことを機械工学の先生に聞いたら、その方面では非常に有名な先生なんですね。機械工学の分野ではBrown学派というのは世界で有名なんだそうです。 それは物性を数学的にとりまとめて、統一しようとする学派でね。帰国の後、日本材料学会の座談会でこの話をしたのですが、機械工学の専門の教授がたの意見によると、Truesdellさんがやっておるような学問はたいへん重要なものであるが、日本ではそのような学問が育ちにくいのだそうです。Brown大学におけるこのような連続体の力学は世界で注目されていてBrown大学へ、留学する人もあり、ディスカッションのために学者が訪問したり、滞在したりすることも多いのだそうです。その旗頭がTruesdellという人で、おそらくりっぱな講演をしたんだろうというように機械工学の先生がいってましたね。
岡:年は45才ぐらいの感じでしたけどね 、 すごくenergeticな人でした。Encyclopedia of Physics, Vol. III/XにClassical Field Theoryという題で600ページ近くのぼう大なものを書いている点から見てもTruesdellという人はすごくファイ トのある人だと思っていました 。Bingham medalの受賞講演でも大体Rational mechanicsの話をしていました。
堀尾:ちょうどMarvinさんもこういう系統の研究をめざしているというような感じですね。
神 戸:Transactions of the Society of Rheologyというのが毎年出てますが、アメリカのレオロジーのシンポジウムとして必らず、このRational mechanicsがありますね。 この数年間、数学的なレオロジーをやろうという意気込みがあるようですね。私は、これにアメリカ人の一種の意気込みを感じました 。アメリカはこういうのをこれからやるんだという...。 旗頭をみんなが集まっている真中へ持ち出して授賞式をやって、アメリカの将来のレオオジーはこれでいくんだと、こういう感じを受けましたね。
岡:日本で国際会議をやるとき、日本は、これでいくんだというものをみせることができれば非常にいいと思うんですが...。
近久:応用力学とか、応用物理とか...。
岡:む しろ新しい大変形の理論なんかが土台でしょ う。
神戸:私はそういうふうな感じがするんです。私は数学のことはよくわかりませんが、つまり今ままでのlinearの力学というものがゆきづまっているのを、non-Iinearの方向に拡張したもっと一般的な力学体系をつ く ろうということのようです。
岡:Rivlinの理論もそれですね 。
堀尾:しかし、Truesdell先生ご本人はユーモアたっぷりに話してましたね。
神戸:そうですね。 たいへんむずかしい話の中を人を笑わせながらね。しかし、話術というのはみんなうま かったですね 。 まじめな話を笑わせながらやるというのは外国人独特のものがありますね。
このレオロジーの基礎となっている「有理力学」Rational Mechanicsを熱力学へ応用したものが、本書のRational Thermodynamicsである。
最初これを「有理熱力学」と訳したんだが、第一章の内容からしても「解析力学のような熱力学を作るべきだ」ということから始まっているので、本書の「解析熱力学」という名前につけ直したのである。
この提案は、私の翻訳文が名文でなかったために、海鳴社の編集長がわざわざ保江邦夫先生に訳してもらい、「お前のはこういう名文ではないからだめだ」とお叱りを受けた際、保江先生から「有理〜〜」より「解析〜〜」の方が良くないかと提案いただいたわけである。
ここで、一応説明しておくと、
いわゆる力学は最初ニュートンが発展させたんだが、その後、オイラー、ラグランジュによりほぼ完成させられた。
そうなると、基本的な概念である、ニュートンの3法則:
慣性の法則
ニュートンの運動方程式F=ma
作用反作用の法則
を満たせば、質量m、力Fは問題毎に異なり、なんでも良い。
この理論的枠組の方が物理系の内容より重要だという思想を生んだ。
ニュートンの運動方程式から、積分してエネルギー保存則が生まれた。
それをさらに数学的一般化し、オイラーが変分原理でオイラー方程式を生み、ラグランジュがラグランジュ方程式を生み出し、ニュートンの対象とした物体の運動だけではない、一般の運動体への応用の道を作り出した。
こういうアプローチの力学を解析力学と呼んだわけだ。
トルスデルは、この思想がなぜ熱力学に応用できないのかと疑問に思ったわけだ。
エネルギーの保存則、エントロピー、熱、散逸、
こういった熱力学でだれもが必要とする基本概念を理論の枠組みの基本に取り、それらの一般的な関係式だけに意味があり、それぞれの内容には特段の意味がない。むしろ未定義概念としてブラックボックスとして定義する。
それを個別のそれぞれの系に対して、きちんと定義すれば、別にエントロピーがボルツマンのS =klogWでなくても良い。
たまたまボルツマンのエントロピーの定義式は、気体の熱力学を対象にしたからうまくいったに過ぎない。
エントロピーは熱力学概念であって、ボルツマンの式である必要はない。
とまあ、こんなふうな思想でトルスデルが考え、熱力学を再構築したわけだ。
そうやってできたものが、有名な不等式:
クラウジウス-デュエムの不等式(Clausius–Duhem inequality)である。
連続体力学や固体力学やレオロジーの分野では、この不等式が非常に重要な役割を果たし、形状記憶合金の熱力学などではかなり昔から応用されて非常にいい結果を出している。
固体は変形するたびに熱を発するが、そういう時間的に急速に熱変化が起こる系でも熱力学的に問題を扱うことができるのである。
こういう端緒を築いたのがトルスデル博士だった。
が、上の座談会にもあったように、いまだ我が国では馴染みが薄い。人気がない。
非線形非平衡の熱力学の分野では、昔からトルスデルの論文や本は引用されては来たのだが、またその理論の一部は使われても来たわけだが、その本の内容自体はあまり知られることはなかった。
なぜか?
というと、理論物理学の分野では世紀の天才といわれたラルス・オンサーガーのいわゆる「オンサーガー理論」こと、不可逆過程の理論を全否定していたからである。
けちょんけちょんにけなしたのである。
ノーベル賞をとったその題目を数学的に厳密に否定しまくった。
それが本書である。
というわけで、理論物理学者にとって一種のオーパーツとなってしまったわけである。
大御所オンサーガーに反目したくなければ、あるいは、そのオンサーガーの信者である東大や京大の熱力学の大御所に目をつけられたくなければ、あるいは、その結果として職を失ったりしたくなければ、このトルスデルの本は翻訳したくないのである。
という事情から、恐ろしすぎて、1969年の本が今年まで誰も翻訳しなかったというわけである。
したがって、何の因果か職などお構いなしのフリーの俺の出番と相成った。
因果応報ですナ。
いやはや、世も末ですナ。
by kikidoblog2 | 2019-07-22 13:00 | ブログ主より





































